1on1を形骸化させない!部下の成長を加速させるフィードバック・コーチング実践術
チームリーダーの皆様、日々の業務、お疲れ様でございます。部下との定期的な対話の場として「1on1ミーティング」を導入されているチームも多いことと存じます。しかし、「せっかく時間を取っているのに、なかなか成果に結びつかない」「ただの雑談で終わってしまう」「何を話せば良いか分からない」といったお悩みを抱えていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。
1on1ミーティングは、適切に運用すれば部下の成長を支援し、モチベーションを高め、チーム全体のパフォーマンスを向上させるための強力なツールとなります。特に、フィードバックとコーチングという二つの要素を効果的に組み合わせることで、その真価を発揮します。
この記事では、新任リーダーの方々が1on1ミーティングを形骸化させず、部下の成長とやる気を引き出すための具体的なフィードバックとコーチングの実践術をご紹介いたします。読者の皆様が、自信を持って部下との対話に臨めるようになることを目指します。
1on1が形骸化する主な原因と対策
まず、なぜ1on1が形骸化してしまうのか、その主な原因と、それに対するリーダーとしてできる対策を考えてみましょう。
- 原因1:目的が曖昧である
リーダーも部下も、何のために1on1を行うのかを理解していない場合、漠然とした対話になりがちです。
- 対策: 1on1の目的(部下の成長支援、課題解決、モチベーション向上など)を明確に伝え、共通認識を持つことが重要です。
- 原因2:一方的な情報伝達の場になっている
リーダーが部下への指示や業務報告の確認に終始してしまい、部下の話を聞く時間が少ないケースです。
- 対策: 部下が話す時間を8割、リーダーが話す時間を2割程度とする「傾聴の姿勢」を意識し、部下中心の対話を心がけましょう。
- 原因3:事前準備が不足している
テーマ設定がなされていない、話す内容を考えていないといった状況では、有意義な対話は望めません。
- 対策: 事前にテーマを設定し、部下にも話したいことを考えてもらうよう促しましょう。リーダー自身も部下の状況を把握し、質問を用意することが大切です。
成果を出す1on1のための事前準備
効果的な1on1を実施するためには、事前の準備が鍵となります。
1. 部下の状況把握とテーマ設定
部下の直近の業務状況、関心事、抱えている課題などを事前に把握します。可能であれば、部下本人にも「今回の1on1で話したいこと」や「相談したいこと」を事前に共有してもらい、テーマを擦り合わせておきましょう。
【部下への事前共有テンプレート例】
〇〇さん、来週の1on1についてご連絡です。 今週は〇〇のプロジェクトでご活躍されている様子を拝見しました。 今回の1on1では、特に〇〇の件や、〇〇さんのキャリアについて話せたらと考えていますが、何か他に話したいことや相談したいことがあれば、事前に教えていただけますでしょうか。 当日は〇〇さんの成長につながるような時間にしたいと考えていますので、ぜひ建設的な対話にしましょう。
2. 質問の準備
部下の内省や主体的な行動を促すための質問をいくつか用意しておくと良いでしょう。
- 最近、仕事でうまくいったことは何ですか? その要因は何だと思いますか?
- 反対に、課題だと感じていることはありますか? それをどのように解決していきたいと考えていますか?
- 今後、どのようなスキルを身につけていきたいですか? そのために、何から始められそうでしょうか?
3. リーダー自身の心構え
1on1は部下のための時間です。批判的な態度ではなく、部下の成長を支援するという温かい気持ちで臨むことが、部下の安心感と信頼感につながります。
1on1での効果的なフィードバック実践術
フィードバックは、部下の行動改善や成長を促すための重要な要素です。
1. 事実に基づくフィードバック(SBIモデル)
フィードバックは、感情や評価ではなく、具体的な事実に基づいて行うことが基本です。SBIモデル(Situation: 状況、Behavior: 行動、Impact: 影響)を用いると、客観的かつ建設的に伝えることができます。
【会話例】
- 良い点へのフィードバック: 「先日、〇〇プロジェクトでトラブルが発生した際(Situation)、あなたが率先して関係部署に連携し、解決策を提案してくれたこと(Behavior)で、早期に問題が収束し、チーム全体の負担が軽減されました(Impact)。素晴らしい対応でした。」
- 改善点へのフィードバック: 「先週のクライアント定例会議で(Situation)、あなたが提案内容の説明に時間をかけすぎたため(Behavior)、質疑応答の時間がほとんど取れなくなってしまいました(Impact)。次回は、より簡潔に要点を伝える工夫が必要かもしれませんね。」
2. 未来志向のフィードバック
過去の行動を振り返るだけでなく、その経験を未来にどう活かすかを共に考える姿勢が重要です。
【会話例】
「先ほどの件について、次回同じような状況になった時、どのようなアプローチを試してみたいですか?」 「この経験から、今後どのようなことを意識して業務に取り組んでいきたいと考えていますか?」
3. 陥りやすい失敗と対処法
- 失敗例1:感情的になる、個人的な評価に終始する
「いつも〇〇だ」「あなたは〜だからダメだ」といった、主観的で人格を否定するようなフィードバックは避けましょう。
- 対処法: 事実に基づき、具体的に「何が」「どうだったか」を伝えます。リーダーの感情は一度落ち着かせ、冷静にフィードバックを行いましょう。
- 失敗例2:一般的・抽象的な表現で終わる
「もっと頑張れ」「リーダーシップを発揮してほしい」など、具体性のない言葉は部下にとって行動の指針になりません。
- 対処法: 具体的な行動例や期待する成果を明確に伝えます。「〇〇の場面で、△△のように行動すると、よりリーダーシップが発揮できると思います」のように具体化しましょう。
部下の主体性を引き出すコーチングアプローチ
コーチングは、部下が自ら考え、解決策を見つけ、行動する力を引き出すための対話です。
1. 傾聴と承認の重要性
部下の話を遮らず、最後まで耳を傾け、その言葉の裏にある感情や意図まで理解しようと努めます。そして、部下の努力や成果、存在そのものを認め、承認することで、安心感と自己肯定感を育みます。
【会話例】
- 傾聴: 部下:「最近、〇〇の業務で壁にぶつかっていて、なかなか前に進めないんです。」 リーダー:「なるほど、〇〇の業務で壁にぶつかっているのですね。もう少し詳しく、どのような状況なのか聞かせてもらえますか?」
- 承認: 「この難しい状況の中で、△△までやり遂げられたのは素晴らしいですね。よく頑張りました。」 「〇〇さんの、どんな状況でも諦めずに取り組む姿勢にはいつも感銘を受けています。」
2. 効果的な質問の投げかけ方
答えを教えるのではなく、部下自身が思考を深めるような「オープンクエスチョン」を中心に投げかけます。「はい/いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、「なぜ」「何を」「どのように」といった言葉を使いましょう。
【会話例】
- 課題解決を促す質問: 「今回の件について、ご自身ではどのように分析していますか?」 「この状況を打開するために、他にどのような選択肢が考えられますか?」 「その選択肢の中から、最初に何から着手するのが良さそうでしょうか?」
- 目標設定・行動計画を促す質問: 「今後、〇〇の目標を達成するために、具体的にどのような行動をしていきたいですか?」 「その行動計画において、私に何か手伝えることはありますか?」
3. 解決策を共に探る姿勢
リーダーが一方的に解決策を指示するのではなく、部下自身が答えを見つけられるようサポートします。部下が考えた解決策を尊重し、必要に応じて共に実現可能性を探り、具体的な行動計画へと落とし込んでいきましょう。
【会話例】
部下:「〇〇を試してみようと思いますが、どうでしょうか?」 リーダー:「〇〇ですね。それも良いアイデアだと思います。その方法で進めるとして、具体的にいつまでに、どのようなステップで進めていけそうでしょうか?」
1on1を継続し、関係性を深めるためのコツ
- 定期的な実施: 忙しい中でも、決めた頻度と時間を守り、継続することが信頼関係の構築につながります。
- 短い時間でも継続: 全ての1on1が完璧である必要はありません。たとえ短時間でも、部下と対話する機会を設けることが大切です。
- 記録と振り返り: 1on1で話した内容、決定事項、部下の目標などを簡潔に記録し、次回の1on1で振り返ることで、対話の質を高めることができます。
- 信頼関係の構築: 1on1だけでなく、日頃から部下とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を築くことが、部下が本音を話せる土壌を育みます。
まとめ
1on1ミーティングは、単なる業務報告の場ではなく、部下の成長とモチベーションを引き出すための貴重な機会です。この記事でご紹介したフィードバックとコーチングの実践術は、決して特別なスキルではなく、日々の意識と実践によって身につけていくことができます。
部下の話を傾聴し、具体的な事実に基づいてフィードバックを行い、そして、部下自身が答えを見つけられるような問いかけをする。これらのアプローチを継続することで、部下は自律的に成長し、チーム全体のパフォーマンスも向上していくことでしょう。
新任リーダーの皆様には、焦らず一歩ずつ、部下との対話を通じて信頼関係を築き、より良いチームを創造していくことを応援しております。この記事が、皆様のリーダーシップ向上の一助となれば幸いです。